言葉と音楽

好きな、本、映画、音楽について綴ります。金城一紀、村上春樹、西加奈子、サカナクション、椎名林檎が好きです。

有川浩『ストーリー・セラー』

新潮文庫から『Story Seller』というアンソロジーが出ていまして、

「読み応えは長編並、読みやすさは短編並」というキャッチフレーズで

人気中堅作家が作品を書いていて、

当時、伊坂幸太郎さんが好きだった私は、

伊坂作品目当てにこの本を買いました。

 

 

 


Story Seller (新潮文庫) [ 新潮社 ]

 

 

この本には他に本多孝好米澤穂信有川浩近藤史恵佐藤友哉道尾秀介が作品を寄せていたのですが、

その中の有川浩の「ストーリー・セラー」という作品がすごく良くて、

数年してからその「ストーリー・セラー」という作品が

単行本になったのを知ったのですが、

当時は単行本を買う気にどうしてもなれず買いませんでした。

 

数ヶ月前に本屋さんで

この作品が文庫本になっていたのを見つけて手を伸ばしました。

 


ストーリー・セラー (幻冬舎文庫) [ 有川浩 ]

 

アンソロジーでのお話はタイトルにちなんでか、

女性作家とその夫が主人公の物語でした。

たまたま同じ職場で出会った会社員の二人が、

彼女が書いた小説をきっかけにして、付き合い、結婚します。

小説の才があった彼女は彼の勧めもあり、

仕事をやめ小説家へと転身します。

小説家として成功し、波に乗ってきたとき

彼女の病気が発覚します。

病名は「致死性脳劣化症候群」。

彼女のためだけに名付けられたこの病気は

脳を使えば使うほど、思考をすればするほど

彼女の命を削っていきます。

そんな二人とその二人をとりまく人々の物語です。

 

単行本・文庫本では、中編小説が2本収められています。

上の物語をSide Aとし、Side Bが加えられています。

 

Side Bはどう書こうにもネタバレになってしまいますし、

Side Bの冒頭の一言で「え!?」と思ったあの感覚を皆さんにも

味わっていただきたいのでぜひ本で読んでいただきたいです。

 

 

Side Aの主人公の夫婦は、

小説好きな夫と、小説家の妻なのですが、

二人を結ぶきっかけになったのが彼女の小説です。

「小説・文章を書くこと」に関するやりとりがあるのですが、

「書ける人」と「書けない人」という表現にすごく共感しました。

 

私は小さな頃から本が好きで、いろんな本を読んできました。

いろんな作品を読んでいて、次第に「私も書いてみたい」と

そう思うようになりました。

ただ、いざ書いてみようとしても今まで読んだ小説の二番煎じのようになってしまうし、

何かの場面を書こうとしても情景描写が進まないので

「私は才能がないんだ」ということをすぐ実感しました。

 

だからこそ、主人公の彼がいう「書けない人」から「書ける人」への憧れ

ということがすごく共感できました。

 

作家の有川さんはいうまでもなく「書ける人」で

さらにこの本は「読ませる本」だと思います。

小説にも「読ませる本」と「読める本」があって

「読ませる本」は「早く続きが読みたい!」と先へ先へと読んでしまう本で、

自分のペースというよりも、本・作家のペースで読まされる感覚です。

同じ作家さんであっても「読ませる本」とそうでない本はありますが。

 

この本では読者のペースではなく「有川さんのペース」で読まされた感覚でした。

正直、有川さんの作品の中でも苦手な作品、読めなかった作品もあるのですが、

この作品は、自分の中ではアタリでした。

 

情景が容易に想像できるだけでなく、

情景の匂いが漂ってくるような感覚に陥ったり、

登場人物に腹を立てたり、

かなり感情移入できる作品だと思います。

 

悩んでいる方がいらっしゃったらぜひ読んでいただきたいです。

 

装丁のリボンの包装もとても可愛くて好きな1冊です。

 

 

 


ストーリー・セラー【電子書籍】[ 有川浩 ]